そして世界に見放された

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diary

僕は小学校低学年くらいの時まで、ちょっとおかしなマンションに住んでいた。

まず、色からしておかしい。

全体的に緑がかった肌色で屋根が青と白のボーダーだった。

マンション内の通路なのに通路に沿って土があった。

そこでひまわりとかスイカの種とか植えたっけ。

枯れたけど。

階段下のスペースが外だった。

出入口というわけではないのに、砂利そのままで厳然たる外だった。

そのスペースはマンションのコンクリ基礎もないので、当然マンションからみたら一段低い半地下のようになっており、子供心に秘密基地のようでわくわくした。

ベランダ側には、利用されていない空き地があり、玄関側にもかなり大きい駐車場がある。

さらにその向こうは畑で、その畑をこえるとやっと道路が見える。

空き地と駐車場に挟まれた浮島のような立地のマンションだった。

当時はセキュリティ的なものがあまり考慮されなかった時代なので、駐車場とマンションの通路部分を隔てるものは金網フェンスだけ。

そのフェンスも子供達に破られて穴だらけだった。

保育園の時の僕は三輪車に夢中だった。

一階の通路、端から端まで僕の三輪車サーキットのコースだった。

いつも母は仕事で家を空けていて、家には姉と兄だけ。

姉と兄も当時は小学生なので、保育園児を相手するのは面倒だったのだろう。

僕はマンションの廊下で一人でよく遊んでいた。 それでも僕は暇ではなかった。

何秒で端から端まで行けるかとか、階段下の奈落に向けてチキンレースをしたり、通路の土部分にわざと脱輪させたりしてスリルを楽しんだ。

でもたまに、ぞくりと不安になる。

まだ、夕暮れというには早くて、固定された世界。

結構開け放たれて人間の匂いがする空間なのに僕一人。

玄関を隔てた空間にはちゃんと人がいるはずなのに、こんなにも一人で。

もしかしたら僕が見て認識していない間は存在すらしていないかもしれず。

僕がただいまーと玄関を開けた瞬間それまで別のものでいたなにかが姉や兄のふりをしているではないかと、酷く心配になる。 あのフェンス越しに見える道路にたまに通る車も、誰かが車だけ変えて何度も同じところを回っているだけなのではないか。

僕は世界に一人だけで、神様に騙されているのではないか。

世界に違和感を感じた。

大人になった今もあの日の感触を忘れることはできない。